9話



  小学校でのアキの様子は・・・溌剌としていたね。
 男友達と夢中になって走り回ったり、いつも何か面白い事ないか、考えているような感じだった。
 それに、毎日のように誰かとケンカしていた。
 口汚く罵りあって、取っ組み合いの喧嘩までして、お互いに無視し合っていたかと思えば、いつの間にか当然のように、喧嘩した当の相手とゲームしたりする。
 目まぐるしく変わる景色のあれこれに、ボー然としてしまったほどだったわ。
そう・・・。
アキは男の子だから。遊びもダイナミックで、体中で“エネルギー”を発散していた。
ずっと家にこもっていた私は、欠陥を持つ体をいたわって、ジッとしていたから、余計そう思ったのかな?
学校に行き出すと、アキはずっと、付ききりで私を構ってくれると思ったの。
今思うと、なぜそんな妄想をしたのかと、思うくらいだよね。
家に来てくれていたアキは、ジッと私だけを見つめて話してくれていたから?
その調子で、学校でもいてくれるんだと、思ったの。恥かしい話だよね。
アキにはアキの学校生活があるんだもの。
友達もたくさんいて・・。それも、男の子がだよ。
始終、妹の面倒を見るみたいに、何にも出来ない私の側にいるなんて、出来るわけないよね。後で考えると、アキの行動は全然おかしくは、なかったものだけれど・・・。
『一緒にいてくれない。』だなんて、寂しく思ったわ。
そんな言葉、一言も洩らさなかったけれどね。
正直な気持ちは、そうだったの。
けれども、アキはアキなりに、私の事を気遣ってくれる行動は、とってくれたよね。
「高オニしよ!」
 なんて、休み時間になって、みんなで遊ぶ時は、絶対私も誘ってくれたし、メロディオンを弾く時だって、私をなるたけ仲間に入れようとしてくれた。
 学校が終わった後に、以前『近所にとってもいい遊び場を見つけたんだ。』と言っていたとおりに、広い空地を紹介してくれた時は、嬉しかった。
 空地には、2年1組のクラスメイト達が入り乱れて、友達が走りまわっていたとしても、アキが私を連れて来てくれたのだと思った。
 私は、あなただけを見ていたから・・・。
集まれるだけ集まった1年2組の面々で、大きいドラムカンの上を飛んだり跳ねたり、鬼ごっこしたり。
飼い犬の散歩がてらに、連れてきている子だっていたよね。
よく、イヌのチャッピーを鬼にした。
チャッピーは怖がりで、ドラムカンの上に登れなかったから。
地面につけば、追いかけてくるチャッピーから逃げて、ドラムカンに上る。
チャッピーがワンワン吠えて追いかけてくる姿は、恐ろしかった。
ハラハラドキドキ・・。
病み上がり。だという理由で私だけが10秒以上、ドラムカンの上にいてはいけない。の決まり事を、免除された。
だから、みんなが必死にチャッピーから逃げまとう姿を、ドキドキして見守っていたわ。
心臓の鼓動が高まる瞬間は、私には“発作”の恐怖を思いおこさせた。
けれど、みんなが遊んでいる時に、“ちょっと怖い〜”なんて言ったりしたら、面倒な奴・・なんて、イヤな視線を浴びるかと思ったの。
何も言わず、立ちすくんで、なんて思ったと思う?
みんなの事を、
(うらやましい・・・。そのうち私だって、走り回ってやる。)
だったのよ。
アキの背中にタッチしてやる。
チャッピーから、逃げおおせて、みんなと同じように、汗だくになって、ドラムカンの上に、10秒もいない動きを見せてやる・・・。
穴が閉じられた心臓は、リズミカルに動き、どんなに激しい動きをしたとしても、全身に栄養を送り続けることが、出来るはずだから。
今はまだ術後の経過観察中で、無理な動きは禁止されていた。
徐々に運動能力がUPしだして筋肉もついて、体もどんどん大きくなって、太陽の光を浴びて成長する。
みんなと同じように・・・。
アキの隣りにいて遊ぶ。
アキと共に、一緒の世界を見る。