8話



 初めての学校は、とても緊張したわ。
 大きな校舎。チョークの匂いが染みついた教室。
 たくさんのクラスメイト達の顔。顔。顔・・。
 ほとんどみんな、アキのように、健康的に日焼けしていた。
 生っ白い顔で立ちすくんでいたのは私だけ。
「沢尻綾(さわじり あや)さんです。心臓の手術をして、元気になれたので、やっと学校に来ることができました。
 みなさん。仲よくしてあげてくださいね〜。」
 先生の言葉は、ゆっくり教室に響いて、幼い子供達に言い聞かすかのように優しい響きが込められていた。
 私には、そう思えたわ。
 そして、同じクラスには、アキがいた。
 大きな瞳を、期待にキラキラ輝かせた彼がいた。
 新しい環境は、私を委縮させた。けれども、アキがいたから、私は教卓の横に立っていれたの。
 励ますかのように、私を見つめてくれる、彼の視線が勇気付けてくれた。
「沢尻綾です。・・よろしくお願いします。」
 ビクビク・・・小さな声で、なんとか言葉に出来て、頭を下げた私に、クラスメイト達がザワザワしだす気配くらいは伝わってくる。そして、
「かわいいぃ〜!」
 なんて声が上がった時は、ビックリした。
 びっくりしすぎて、ハタと顔を上げた私に、集中する彼等の視線。
「お人形さんみたい〜。」
 一番前にいた女の子が、アキとおなじセリフを言ったから、血の気が引いた。
(私が小さいから?)
 人形みたいに見えた?
 蒼白になっている私の顔色に、先生は気付かない。
「まるで日本人形みたいですよね〜。私も初めて綾さんを見た時は、そう思いましたよ。
綾さんには、今のところ、一番後ろの席なのよ。席替えするまでは、そこでお願いしますね。あそこの机よ。」
 先生に誘われて、ギクシャクとした動きで進んだ私は、自分の机の前に立っていた。
 アキからは、遠い席だったけれども・・・。
 休み時間には、人形。だなんて言われて、青くなった事実を忘れるくらいに、クラスのみんなから集中的に歓迎の言葉を浴びせられて、戸惑ったのが、初めての小学校の一日目だった。