7話



 手術は無事に済んで、麻酔から目を覚ました時に、涙をためたお母さんの瞳があったの。
 その時、手術をしてよかったと思った。
 お医者様は、手術自体は簡単なもので・・なんて、軽く言っていたんだけれど、全身麻酔で、人工心肺付けて、おまけに一度は心臓の鼓動をとめるんだよ。
 患者にとっては、一度死ぬようなもの。
 ・・・穴を縫いあわされた私の心臓は、電気ショックで再び元気に動き出して、他の人と同じように、肺から戻った血液は混ざらずに、全身へと送り出していった。
「手術は大成功よ。綾。・・・これからは、どんなに走り回っても発作を起こすことないし、どんどん体も大きくなれるわ。」
 キラキラ光るお母さんの瞳は、これ以上ないくらいに喜びを表わしていて、
「ごめんね、綾。痛い思いさせて・・でも、なんとか普通に生活できるようになったから・・。」
 あんな体に生んでしまったお母さんを赦してね。
 小さくつぶやいたお母さんの言葉。
 彼女がそんな事思ってたなんて、思いもしなかった私は、とっても意外だった。
 私みたいな子を、お母さんは疎ましく思っていると思っていたから。
 心臓に欠陥のある子を生んでしまったのは、自分に責任があるだなんて・・・自分を責めていたお母さんの言葉を聞いて、子供なりに言葉の意味を理解した瞬間。
 私は“わあー”と、大泣きに泣いた。
 お母さんも私の涙に誘われたらしい。親娘で“わあーわあー”泣いて、看護師さんがびっくりして駆けつけたほどだった。


 病院を退院して、ひと段落して学校に行く。と言いだした私の変化に、お母さんもお手伝いさんのキミさんも門田さんもビックリした。
 単純に彼女達は、私の体が元気になったから、学校に行くって言ったと思ったみたい。ホントはそうじゃないんだけどね・・。
 学校の件は、お母さんたちによって速やかに手続きが済まされて、学校に行く前の日なんかは、担任の先生が顔を出してくれたんだよ。
 購入してから一年以上たってから、やっと腕を通されるランドセルは、光っていたわ。
 上靴入れに教科書。ペンケース。私の名前が入った体操服・・・一番小さなサイズでもダボダボだったのは、やっぱり寂しい気持ちになったけど、これからはたくさん食べて大きくなれるんだもの。
 新しい道具達から未来が見えた。それを想像できるだけで、私は楽しくなれた。
 クラスにはアキがいる。
 早く明日が来ないかな。なんて思ってなかなか寝付けなかった。